「ライバー」の人たちの間では配信方法を見直す動きが出ているほか、配信アプリ側でも配信にあたっての注意を呼びかける動きが出ています。
「事件ですごく不安になる」
今月11日、新宿区高田馬場の路上で、動画の生配信中に22歳の女性が刃物で刺されて死亡しました。
警視庁によりますと、逮捕された容疑者は、女性の動画配信を見たことをきっかけに知り合い、事件当日は、生配信中の動画を見ながら女性の居場所を特定したなどと供述しているということです。
この事件を受けてSNS上では、動画の生配信を行っている人たちから「事件ですごく不安になる」とか「ひと事ではなく、自分にも訪れる可能性がある危険だと再確認した」、「もう少し配信のやり方について考えます」などと、不安の声が相次いでいます。
事件を受けて、これまでの配信活動を休止したという人もいるほか、動画配信アプリの運営会社や「ライバー」が所属する事務所が注意喚起を行うなど、影響が広がっています。
ライバー「配信方法 考え直したい」
13年にわたって動画配信を行っている「ライバー」でシンガーソングライターの優里香さんは「事件はとてもショックで、自分の身を守るためにも配信の方法を改めて考え直したい」と話しています。
優里香さんは13年前、高校1年生のとき、クラスメートとの人間関係に悩み、居場所を求めて動画通信アプリを使ったライブ配信を始めました。
ライブ配信では、自作の曲を歌ったり生活の状況を伝えたりしているほか、視聴者のメッセージに返答するなど双方向のやりとりができるため「会ったことがない人が友だちや家族のように応援してくれる。人の優しさや温かみを感じられる空間だ」と話していました。
配信では、アプリを通じて視聴者たちがチップのように「投げ銭(せん)」と呼ばれるお金をライバーに支払うと、ハートやシャンパンのイラストが次々と表示されます。
視聴者はしだいに増え、今では一度の配信に300人から500人ほどが集まり、毎日4時間、長いときで1日10時間に及ぶということで「自分にとってライブ配信はお風呂に入ったり歯を磨いたりすることと同じで、生活の一部になっている」といいます。
優里香さんは以前は屋外でライブ配信をしていましたが、3年前、勤めていた職場に突然、視聴者が現れたことから、屋外での配信をやめたといいます。
当時は通勤途中などにライブ配信をしていたことから、画面に写った風景などをもとに職場を特定された可能性があるということです。
当時について「身の危険を感じて体の震えと涙が止まらなかった」と振り返りました。
優里香さんは「ライバー」が集まる事務所の代表も務めていて、所属する「ライバー」に対して、居場所が特定されないよう屋外での配信は控えることや、視聴者と個人的に会わないこと、視聴者からの贈り物は対面では受け取らないなど、改めて注意喚起をしていくということです。
今後については「ライブ配信の魅力はたくさんあり、ライバーも視聴者もこの空間で互いに支えられている。ライバーと視聴者が適切な距離感を保てるように意識していきたい」と話していました。
ライブ配信アプリの運営会社が注意呼びかけ
事件を受けてライブ配信アプリの運営会社は「ライバー」に、安全に利用するための注意を呼びかけています。
動画配信アプリでのライブ配信は、配信者がトークや歌を披露するなどして視聴者と双方向でやり取りを行い、スマートフォンなどを使った手軽さから、若い人を中心に利用が増えているといいます。
ダウンロード数が650万件余りに上るライブ配信アプリ「ポコチャ」では、「ライバー」が自身の個人情報を公開することを禁止していて、事件を受けて改めて配信にあたっての注意を呼びかけました。
「居場所特定に結びつく発信 注意を」
それによりますと、顔が見えない相手に自身の個人的な情報を教えることは、思わぬトラブルにつながることがあるといいます。
居場所を特定できるような発言を控えることや、映り込む背景が居場所のヒントになることから配信場所を慎重に考えた上で、マンションの間取りなど特定につながる情報を出さないよう呼びかけています。
また、屋外での配信の際には、街の風景や建物など、特徴的なものが映り込むことで、個人や居場所を特定できるヒントとなるおそれがあり注意が必要だとしています。
「学校や職場の予定情報 注意を」
また、「○○に行く予定」「あす○○をするよ」など、自分の予定を詳細に話すこともリスクにつながることから、こうした情報共有は慎重に行うことや、自身の学校や職場などについても具体的な場所の名前を言わなくても、複数の情報をつなぎ合わせることで、勤務地や生活圏を特定できる場合があるということです。
例えば、電車の路線、学校の学部名や制服、行事の名前などは特定のヒントになりうるとして、これらの情報を扱う場合は注意しながら配信するよう呼びかけています。
「リスナーとの距離感 意識を」
ライバーの養成に取り組むオンラインのスクール「LiverSchool」も、事件を受けて注意喚起を行っています。
およそ50人の受講生に対し、これまでも屋外でのライブ配信のリスクについて講義で伝えていたといいます。
事件発生翌日の12日「今すぐ実践すべき4つの危機管理」というタイトルで「配信場所を特定されないように」「視聴者との距離感を適切に保つ」などの内容を、具体的な対策とともにまとめた記事を発信しました。
特に、配信を視聴する「リスナー」とは個人的なやりとりや金銭の貸し借りはせず、適切な距離感で接することが重要だとしていて、身の危険や不安を感じた場合は警察などに相談するよう呼びかけています。
スクールの大山亮祐代表は「ライブ配信はスマホさえあれば、事務所などに所属していなくても誰でもできるので、不慣れな人は視聴者との距離感の感覚がまひしがちになる。誰もがチャレンジできて、人生が変わったり成功したりする人もいるが、その反面リスクもあることを事前に学ぶ必要がある」と話していました。